心不全に対する在宅酸素療法

1)酸素療法

心不全治療の効率を高めるためには、個々の患者において悪循環を形成している個別病態を明らかにし、これに対して特異的な治療手段を講ずる必要がある。夜間酸素療法は睡眠時無呼吸症候群という個別病態を標的とし、これに特異的かつ直接的に介入する点で、これまでの心不全治療とは際だった特徴を持つ。

i )睡眠時無呼吸症候群の診断

睡眠時無呼吸症候群は、気流の振動が10秒以上停止した状態を無呼吸、通常の50%以下に低下し酸素飽和度が3%以上低下した場合を低呼吸と定義し、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数(無呼吸低呼吸指数、apnea hypopnea index:AHI)から診断する。AHIが5未満なら正常、15以上なら明らかに異常である。

携帯用パルスオキシメータを用いて、無呼吸や低呼吸による4%(あるいは3%)以上の脱酸素化が1時間に起こった回数(酸素飽和度低下指数、oxygen desaturation index:ODI)も有用である。睡眠時無呼吸は慢性心不全患者の30〜50%に認められ、多くは(50〜80%)中枢型無呼吸であるが閉塞型や混合型も含まれる307)。

ii )睡眠時無呼吸症候群の病態

中枢型無呼吸による低酸素血症は中枢性二酸化炭素(CO2)感受性を亢進させ、過換気を介して睡眠時無呼吸を悪化させる。また、低酸素血症が交感神経を賦活しこれがCO2感受性を亢進させる悪循環も形成されている。CO2化学感受性の亢進は夜間の中枢型無呼吸だけでなく昼の労作時過換気の原因となる。さらに無呼吸による睡眠の分断は睡眠不足を招き翌朝の倦怠感の原因となる。

心不全患者において無呼吸低呼吸指数が30(回/時間)以上は心臓死の独立した危険因子であることが報告されている。閉塞型睡眠時無呼吸では、低酸素血症がIL-6やCRPを増加させ内皮依存性血管拡張能を低下させることから、本疾患と種々の心血管合併症との関連が注目されている。

iii )夜間酸素療法

夜間酸素療法により吸入酸素濃度を上げ肺胞内酸素予備力を増すことにより、中枢型睡眠時無呼吸による低酸素血症を防止することができる。この結果、1)末梢組織への酸素供給能を回復させ、2)交感神経活動を抑制し、3)心室への負荷を軽減し、さらに4)中枢性CO2感受性の亢進を是正することにより、5)睡眠時無呼吸を改善し、6)睡眠の質を高め、7)患者のquality of life(QOL)を改善することが期待できる。

本治療法は主として中枢型無呼吸を有する心不全患者に有効であり、閉塞型無呼吸には効果がない。慢性心不全に対する夜間酸素療法の関する臨床成績は未だ十分でない。これまでの報告では酸素投与により、夜間の低酸素血症とAHIが有意に改善する点が共通している。睡眠構造に対しては途中覚醒の頻度が減少するが、深い睡眠ステージの改善については必ずしも一致していない。神経体液性因子に関する検討は少ないが、酸素療法により睡眠中の尿中ノルエピネフリンが有意に減少するが、血漿ノルエピネフリン濃度や脳性利尿ペプチド濃度には変化が見られていない308)。酸素療法により運動耐容能や運動時の過換気が改善す るが、認知能力の改善については必ずしも一致した成績が得られていない。これらの成績は、いずれも観察期間が短く症例数も少ないため確定的ではなく、今後の検討が必要である。

本邦において、中枢型睡眠時無呼吸を有する慢性心不全患者に対して、夜間酸素療法を3ヶ月間行った成績がある309)。この試験では、動脈血の脱酸素化が5(回/時間)以上、左室駆出分画が45%以下の心不全患者に対し、夜間睡眠中に酸素(3L/分)が投与された。その結果,対照群に比し酸素投与群ではAHIが有意に減少した。本試験では身体活動能指数で評価した自覚症状が酸素療法により有意に改善した点が注目される。現在、NYHA3度以上の慢性心不全患者で、睡眠中にCheyne-Stokes呼吸が認められ、無呼吸低呼吸指数が20以上あることが睡眠ポリグラフィー上確認された症例に対して、在宅夜間酸素療法が適用されている。

慢性心不全における睡眠時無呼吸は、患者のQOLを損ねる睡眠不足や活動時の息切れと直接関連し、心機能とは独立して心不全を増悪させる個別病態の一つとして注目されている。夜間酸素療法は、中枢性CO2化学反射や交感神経活動の亢進を是正し、睡眠時無呼吸の頻度を減少させ睡眠構造や自覚症状を改善する点で優れている。本治療法は、中枢型睡眠時無呼吸を頻回に起こす心不全患者にのみ奏功する極めて病態特異的な治療法の一つと言える。

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